レビュー

風のクロノア door to phantomile の総評

[PS] 風のクロノア door to phantomile
風のクロノア

1人専用の2D横スクロール型アクションゲームで、この手のアクションゲームとしては非常によくできた作品です。

ゲームの内容は、悪者に壊されそうになっている夢の世界を、主人公クロノアと相棒ヒューポーが救うというファンタジー。アクション操作は非常にシンプルで、方向キーで進み、ジャンプ、敵を捕まえて投げる、の基本3つだけです。

基本的には横か縦に動く2Dの操作ですが、ゲーム内は3Dマップで作られており、マップ自体が回転(カメラアングルが回転)することで、常に2Dのアクションを行う仕様になっています。このマップの作り方と見せ方が非常に上手くできており、実際には横か縦に操作しているだけでも、プレイしている感覚としては立体的なマップの中を広く自由に動き回っている気持ちよさを感じられます。

プレイヤーが操作するクロノアの動きやスピード感がよく、アクションゲームに欠かせない操作時のテンポの良さがあります。

特に感心するのが、ゲームの難易度の設定です。全体的には簡単すぎず難しすぎずといったところですが、注目すべきはストーリーの流れの中での段階的な上げ方です。最初のステージは操作や出来ることや主な仕掛けなどを見せていくというチュートリアル的な作りになっており、そこからステージを進めるごとにほんのわずかずつ難しい操作を要する場面や頭を使って手順を考える仕掛けが出てきて、ゲームの難易度を上げていきます。

決して遊ぶプレイヤーを突き放さない丁寧な難易度調整が行われているので、途中で泣く泣くギブアップする羽目になる心配をせずに安心して遊べます。

ゲームがあまり得意ではないけどアクションゲームは好きという人にとっては、「ぁぁぁあああ!!!クリアできない鬼門きちゃったかぁぁぁ!!!」となるのがけっこう怖い。王道RPGのようにレベル上げすればクリアできるというものではなく、人間のレベルを上げないとどうにもならないことなので、価値観と満足度が間逆になってお金をドブに捨てたような感覚になりますから。また時間がない社会人にとっても何十分も練習しないと乗り越えられないハードルは脱落のもとになります。

こういうゲームでは、クリアできる安心があって、クリアするまでをどう楽しめるかが重要です。最後まで観られるか分らない映画をお金を払ってまで見たいとは思わないのと同じ感覚です(そんな映画はありませんが)。

初見ではゲームオーバーしてしまうステージもあります。しかし2度目ではクリアできる。そんな難易度です。

ただ、最近のアクションゲームは制作者がプレイヤーに挑戦するような難しさよりも、プレイヤーが気持ちよく進められる快適さを重視しているものが目立つので、それらに比べると難しめです。キャラクターは可愛らしいですが、いわゆる「ヌルゲー」ではありません。

やり込み要素は、夢のかけら収集、住人救出、タイムアタック用EXTRAステージ(クリアするとMUSIC PLAYERモードが現れ、ゲーム中のBGMを聴ける)とあり、ストーリーを終えた後でも楽しめる作りになっています。

ストーリーについては、感動できる一部のフレーズだけをクローズアップして見れば感動できる、という作りです。このキャラクターの性格や世界観の設定では無理があるストーリー展開を当てはめてしまっているせいで、大味に楽しむしかないという状態に組み上がってしまっています。

童話の性質に近く、子供に部分的に「良い話でしょ」と聞かせることはできるけど、大人が冷静に見ると、「ちょっとまて!それは酷すぎ!おかしいって!」と言いたくなるようなおかしな設定とストーリー展開で不可思議さを感じずにはいられず、残念ながら決して良い評価ができるものではありません。

都合良く頭をからっぽにして特定のワンフレーズだけを抽出して感動するスイッチをオンにすれば楽しめると思います。

良く言えば、ゲームを作るセンスはあるけどストーリーを作るセンスは無いという、「とにかくゲーム作りてぇ!」という昔ながらのゲーム屋集団が作った手探り感が残る作品というところです。

1997年当時の横スクロールアクションとしてはトップクラスの完成度の高さです。しかし爆発的な知名度を得るようなビッグタイトルではなく、一般のプレイヤーよりもむしろ同業他社のゲーム制作者らが「あれよくできてるよな!」と絶賛するようなポジションです。

短期的な話題性と収益を優先する今のゲームビジネス展開では、もう生まれないようなタイプのゲームかもしれません。

今の成熟したゲーム制作から見ると多々未熟さが目立ちますが、それでも今遊んでみても面白い!とりあえずやってごらん!と人に薦められるゲームです。

良い点

キャラクターの操作性

基本的にはジャンプ、2段ジャンプ、浮遊、敵をつかんで投げる、という少ないアクションだけで成立しています。ボタンが余っているのでスライディングなどの技も盛り込みたくなりますがそういうものはなく、限られたアクションでプレイする楽しさを演出している点は非常に素晴らしいです。

また、キャラクターの動く速さ、ジャンプの高さ、距離、挙動など、プレイしていて気持ち良く思わず力が入る作りになっていて、こちらも素晴らしいです。

難易度の上げ方

ストーリーが進むにつれ徐々に難しい操作を要する場所が出てきますが、本当に少しずつ少しずつハードルを上げていっているので、極端な鬼門というのが存在しません。このあたりはプレイヤーを突き放さずによく考えられた構成になっていて、途中で投げ出す心配をせずに安心して進めていけます。

頭を使うという意味では鬼門になりうる場所はありますが、手順が分れば操作は簡単なので単純に謎解き(手順解き)を楽しみましょう。

適度なテクニックと手順を要するやり込み要素

一周目をクリアすると、露骨な二周目が登場します。「もう一周、当然やるよな?」と言わんばかりに思いっきりマップ画面に変化が表れます。

夢のかけら収集は目標数まで集めようとすると、それなりに技術や知恵が必要になるので、単にステージをクリアする場合とは違った面白さがあります。

また、「住人」を全て救出することで出現するタイムアタック用EXTRAステージ「バルーの塔」もおまけ要素として用意されています。ストーリーステージのアクション難易度が高い部分だけを繋げて作ったような構造ですが、クリア不可能というものではありません。しかし、好タイムを狙ったり夢のかけらを全て集めようと思えばそれなりに大変なステージです。

2D横スクロールなのに、3D的な広さを感じさせる

プレイヤーの操作で上や下を押して敵を投げることで、ステージの奥や手前の広がりを演出しています。また、カメラアングルが動くことで立体的なマップを常に2Dアクション視点で遊べるようになっています。

操作や理解を難しくさせることなく、空間の広がりを感じさせて面白さや気持ちよさに繋げています。

死んだ時のやり直し

死ぬとチェックポイントからやり直しになり、チェックポイント以降に取ったアイテムなどは無効になります。ストーリー1周目をプレイしている時は、この仕様がわずらわしく感じることもありますが、夢のかけらを集めたり、住人を救出したりといったやり込み要素をこなしていく上では非常に助かります。

音楽と効果音

クロノアの音楽は民族的な要素を取り入れつつキャッチーな仕上がりのものばかりで、非常に聴き心地良く印象に残ります。

効果音もまたインパクトあるものばかりで、いつでも脳内再生できてしまうほどしっかり作られています。

わっふぅ♪るっぷるっぷ♪

このゲームの世界専用の言語であるファントマイル語を作って、セリフは全てそれを使ってコミュニケーションを演出しているところは非常に巣晴らしいです。

これが普通の日本語だったら、ファンタジーの世界観の雰囲気作りのクオリティがダダ下がりしていると思います。・・・あ、うぃ・・・。

悪い点

キャラクターの操作性

クロノアの空中での動きは、方向キーを放した瞬間に真下に落下します。横方向の惰性が無く放物線を描かない動きです。ところが地上を走っている時に方向キーを放すと惰性で滑ります。急には止まれません。

この操作の一貫性の無さが非常にややこしくて、操作に慣れるのに時間が掛かります。空中での動きに慣れた時には、地上で穴の前で止まろうとした時に惰性で滑り落ちて死亡。地上の動きに慣れた時には、空中で惰性を期待して方向キーを放してしまい距離が足りずに落下して死亡。

どちらの仕様にしてもこのゲームには合っているのでどちらが悪いということではなく、どちらかに統一していないことが悪く、ゲームの操作性をおとしめています。

ちなみに、PS3でプレイする場合、クロノアが操作不能になることがあるので、VISION 4-2 のボス戦FINAL VISION のナハトゥム戦では注意しながらプレイする必要があります。

プレイ中からマップに戻れない

プレイ中にスタートボタンを押して開くメニューの中に、「マップに戻る」や「ステージから出る」のようなコマンドがありません。そのため、今プレイしているステージを途中でやめて他のステージをやりたい場合は、一旦「タイトルに戻って」セーブデータのロードからやり直さなければいけません。

タイトルメニューの初期位置が「はじめから」

「はじめから」は最初の一回しか使わないので、セーブデータが存在する場合には「つづきから」を初期位置にした方がユーザビリティーが高いです。

ストーリーが不可思議

以下、多くのネタバレ含みます!

以下、多くのネタバレ含みます!

普通に見ているとストーリーが凄く「不可思議」なんです。

ストーリーの大きな流れは以下の通り。

ド田舎で暮らすクロノアが親友のヒューポーを連れて冒険スタート

実はヒューポーは月の国の王子だったことをクロノアにカミングアウト

ボス討伐後、クロノアはヒューポーに「君が王子でも今までどおり親友だ」と告げる

それを受けてヒューポーがクロノアに「実は君はこの世界の人じゃない」と強烈なストレートパンチ

・クロノアはこの世界を救うために僕が連れてきた
・クロノアの幼少時代の記憶は僕が作った偽物
・クロノアはもうすぐこの世界から消える運命
・・・というように、混乱するクロノアを超新星爆発級のカミングアウトでこれでもかというぐらい追い込みまくるヒューポー。

クロノアが消えて、ヒューポーの世界が救われてエンディング

ヒューポーの行動が普通におかしいです。最初から最後までヒューポーは自分の欲求を満たして終了する流れです。際立って人でなしな行動をとっているのに良い人であるかのような設定で扱われているため、狂気じみたストーリーにみえてしまいます。

普通、自分の力では解決できない問題に直面したら、「友人などに相談」したり「専門機関に依頼」します。つまり良識ある人だったら、「こっちの世界に来て助けてくれないか?」と交渉して合意の上で来てもらうものです。

ヒューポーというキャラクターは、容姿は年端も行かない幼子ですが、自分が背負っている物や状況を理解している上、親元を離れての自由行動、自制心、死への理解、恋愛感情の理解、難しい異世界の存在の理解などなど、物事の良し悪しが分っていることから、特殊能力を除けば当たり前の倫理や社会通念を持っている自立した普通の大人と変わらない設定になっていることが分ります。

ところがヒューポーがとった行動は、クロノアを異世界から告知なしに連れてきて(誘拐です)、元々ここの住人だという不可解な嘘の記憶を植えつけ(洗脳です)(じっちゃんまで設置する念の入れよう)、物語中事あるごとに「いくしかないね!」といって普通なら逃げる状況で戦う方に仕向けたり、「じっちゃん死んで悲しいけど先に行こう」などと悲しみに暮れるクロノアに間髪入れずにムチ打ったり(無慈悲な心理誘導です)、最後の最後で「自分は正直者でありたい」という欲求を満たすために、ここまできたらもうクロノアは知らなくてもいい事実をわざわざ告げて計り知れない衝撃を与える(Sの極みです)、というクロノアの気持ちなどこれっぽっちも考慮していない自分勝手で非道極まりないものです。

こういう行動を取り続けた挙句、クロノアが消えた直後にそれまで流していた涙が嘘のようにピタッと止まり、、、この笑み。

笑うヒューポー

「全て思惑通り♪この世界直った♪ヒャッホイ♪るっぷるっぷ♪(クロノアの真似してみる)」という表情でしょうか、純粋な悪魔です・・・。なぜこんなにもヒューポーは歪んだ設定にされてしまったのか?純粋な笑みでも設定とストーリーが不可思議だと、そのままの意味には受取ることができなくて解せません。

かろうじて、出来る限りヒューポーを理解しようとするならば、ヒューポーの身分に注目するしかありません。

見た目は子供、頭脳は大人なヒューポーは「月の国の王子」です。その立場からすると、特殊な教育を受けて育ったであろうことは推測できるので、下の者は下、全ては月の国のためにある、と『純粋』に思っているがゆえの行動なのかもしれません。

そうであれば、自分の母親に「マブダチできた!」と『誘拐して洗脳したクロノア』のことを紹介してしまうぶっ飛んだ価値観にもうなずけます。

つまりヒューポーは悪い意味でプリンス・オブ・プリンシズ、良く言えばスティーブ・ジョブズばりの辣腕経営者といったところで、なんとか落ち着くしかありません。

一方クロノアは、誘拐され洗脳され親友のふりをされ戦わされ裏切られ消されるという衝撃の事実を知っても尚ヒューポーのことを親友だとしてその気持ちを貫きつつ消えた・・・。この純朴さに泣けます。まるでペットが死んだ時のような悲しみ、親が死んだ時より泣けるっていう。

超純朴なクロノアと純粋に狡猾非道なヒューポーのデコボココンビが織り成すドタバタファンタジックコメディーを、純粋で感動的な友情物語に見せようとしてしまっている不自然さに、良くできたストーリーとは言いがたいものがあります。

友情を築いた二人の別れをクライマックスとして泣かせる仕組みでしょうが、残念なことにそこではまったく泣けません。ヒューポーの自己中心的なカミングアウトでこれまでのストーリー中の行動を振り返り「あれも!?これも!?マジカヨ・・・・」となり、更にはストーリー中盤で殺されたじっちゃんの死の悲しみまでも半減してしまうというショックにみまわれます。なぜなら、じっちゃんもヒューポーの共犯者だからです。ヒューポーと共謀してクロノアをだまし続けていたということです。

・・・っていうかこのじっちゃん誰!?正体不明なんですが、ヒューポーの性格を考えると、このじっちゃんもヒューポーに誘拐され洗脳されていた犠牲者だと考える方が自然だと思いますのでそういうことにしておきます。

このような流れで、『二人は親友 → 強制的な別れ → さあ泣け』というようにストーリーを運ばれても、「誘拐、洗脳、短い間」というキーワードから、友情、信頼関係、そういうものはこんな短期間で築けるものではないという事実とのギャップから、積み重ねたものが無さ過ぎる設定に気付いてしまい全く感動が沸き起こってきません。

先にも書いたように、クロノアの愛玩動物のような純朴さに心打たれます。良くも悪くもそれだけです。

また、エンディングの最後で分るように、このゲーム自体が「プレイヤーが読んでいる架空の物語」であるというオチがついているのですが、これはあってもなくてもストーリーの内容に影響することではありません。こういう仕掛けは、本筋のストーリーがしっかり出来ていてこそ力を発揮するものだと思います。

加えて言えば、テストの答案用紙の名前記入欄の名前に影をつけて立体的に書くようなもので、それをしても70点が80点になることは決してなく、それどころか答案そのものを無効扱いにされかねない賭けのようなものです。最初からファンタジーと分っているだけに最低なオチとは思いませんが、最後の最後に明かす仕掛けは、ストーリーやゲーム自体により大きなプラス感を与えるものであって欲しいものです。

クロノアが真実を知ってしまうと異世界(クロノアの世界)に戻されてしまったり、相棒ヒューポーやその他重要人物が絶命してしまう等の『縛り』があったり、子供のウソらしい可愛い一面の描写がしっかりあったり、ヒューポーとじっちゃんの非道な行動の数々を正当化するだけの何かがあるならまだ納得できる部分が出てきますし、多少の不自然さは童話や子供向け番組のようなものとして受け流せますが、そういったことはありません。

唯一評価できる点は、プレイヤーがヒューポーではなかったことです。

ついでに、ガディウス率いる敵方が無能過ぎるんです。非常に目に付いたのはじっちゃんの家から月のペンダントを奪ったシーンで見せたように、彼等は「特定の物体だけを引き寄せる技術(光線)」を持っています。これがあるなら、物語の序盤で歌姫レフィスの体に月のペンダントが無いことが分った時に、「念のため、その技術で辺り一帯を捜索してみよう」となるのが自然な流れです。すぐ横にある釣鐘の中に隠されているので、ものの数秒で発見できて、「いきなりあったwウケるんですけどガディウス様www」となったはずです。

また、ガディウスの思考や行動が「闇の王」にしてはちっちゃすぎます。ガディウスはストーリー中で「自分も死ぬの分ってるよーん♪イェーイ♪」のような事を言っていて、世界の破滅とともに自分も死ぬことを知っています。これではただの安っぽい自爆テロです。あれだけの力を持っているのだから、せめて「異の夢」にまで影響を及ぼし混沌を楽しむぐらいの設定にして欲しいところです。

それにしても、ヒューポーの全身タイツでムッチリした感じの可愛い容姿で純粋な悪魔のごとき性格、キャラクターとしては非常に魅力的です。

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